【12/14 速報】千葉県多様性条例案、委員会可決される。採決は19日。
千葉県は、「千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」(以下、千葉県多様性条例と記す)の法案を12月定例県議会に提出した。この条例は、性別や性的指向、国籍、性自認等の多様性の尊重をめざしたものされ、12月定例県議会で採決される予定であるが、議会に提出されるまでの過程にいくつもの重大な問題があり私たちは廃案を求める。なお、LGBTの現状と課題については他稿に譲るとして、ここでは触れないこととする。
千葉県多様性条例とは
千葉県多様性制定は、熊谷俊人知事が初当選した2021年知事選の公約のひとつで、9月に骨子案を公表し、11月に県民の意見を募るパブリックコメントを実施し、そして12月定例議会に熊谷知事が提出した。熊谷俊人知事は「一人一人がさまざまな違いがある個人として尊重され、誰もがその人らしく活躍できる千葉県づくりに取り組んでいく」と述べており、千葉県議会最大会派の自民党は党議拘束はかけないが「反対する理由見当たらない」として条例案に賛成する方針を示しています。パブコメリックコメントでは条例制定について、反対ならびに慎重な声が多数よせられておりますが、12月定例議会で採決されて最大会派の自民党が賛成することにより成立される見込みとなっています。
LGBT関係の懸念が多数を占めたパブコメ
パブリック・コメント制度(意見公募手続)とは、行政機関が命令等(政令、省令など)を制定するに当たって、事前に命令等の案を示し、その案について広く国民から意見や情報を募集するものです。これは行政手続法の改正により新設された手続である。
この度の千葉県の「(仮称)千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」の骨子案においてもパブリックコメントが募集され、1,279件の意見が提出された。
パブリックコメントで多かったのは、条例制定に対する懸念の256件で、その内、LGBT 関係が175件をも占めた。これは、条例の趣旨への賛同・条例制定後の施策への期待の89件を大きく上まっている。また、「性自認」の文言を修正・削除すべきとの意見が42件、条例化する必要性がないとの意見が112件、時期尚早・議論不足との意見が58件あった。
パブコメが終わり、12月定例県議会に熊谷知事から上程された。今議会にて採決する予定となっている。
しかし、パブコメは条例案に反映はされなかった。
● パブリックコメントにおいて提出された意見の抜粋
分類 | 件数 |
---|---|
条例の趣旨への賛同 | 47件 |
条例制定後の施策への期待 | 42件 |
条例制定に対する懸念(外国人関係) | 81件 |
条例制定に対する懸念(LGBT 関係) | 175件 |
「性自認」の文言を修正・削除すべきとの意見 | 42件 |
条例化する必要性がないとの意見 | 112件 |
時期尚早・議論不足との意見 | 58件 |
差別禁止や罰則規定を設けるべきとの意見 | 44件 |
【問題点1】パブコメの反映は一切なし
県は「(仮称)千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」の骨子案に対する意見と県の考え方」でパブコメに対し県の考え方をコメントしているが、パブコメの核心に触れずに、真っ向から答えてはいない。(参考リンク 「(仮称)千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」の骨子案に対する意見と県の考え方(資料1)(PDF:468.1KB))
具体例を挙げると、
「女性を自称する男性が、女子トイレや更衣室などを使用するなどして、性犯罪が増えることの懸念がある」という意見に対し、県は「本条例は県民の安全・安心な暮らしに影響が及ぶような事案を助長しようとするものではありません」と的外れなコメント。
また、「海外でも、女子スポーツや女性刑務所等での性自認の取扱い等に関する事例があるように、無制約に性自認を認めることにより、様々な社会混乱が生じることを懸念する」という意見には、「権利の付与や禁止・罰則などを定めるものでも、迷惑行為や違法行為を認めるものでもなく、社会の混乱や分断を招こうとするものではありません」とコメントしている。
いずれも、パブコメを寄せた人の懸念に対し、県は意図的に無視したような回答をし、パブコメの意味を踏みにじっている。
一方、知事も定例記者会見(令和5年11月9日)において、
「パブリックコメントは様々な御意見をいただいたが、そもそも条例でそうした懸念を助長するようなものではないものがたくさん含まれていた」として、条例案を修正することなく提出したと述べた。
このように、条例がトラブルの原因になることへの懸念や今後展開される施策への不安を寄せたパブコメは条例案に反映されることはなかった。
【問題点2】意見交換はLGBT団体のみ
また、条例骨子案作成時に意見交換したのはLGBTを支援する活動団体のみであるのも判明している。
このLGBT団体のホームページに掲載されている活動実績には、
パートナーシップ・ファミリーシップ制度、 スポーツとLGBTなどの講演会開催があった。また、千葉県は同団体の「活動を通して得た知識や情報を伝える」として、人権啓発パンフレットを作成しており、小中学生への包括的性教育推進を記載している。
パブコメの「選択的夫婦別姓制度を認めるよう、県が国に対する意見表明をしてほしい」「パートナーシップ宣誓制度を導入してほしい」「包括的性教育を実施してほしい」に対し、県は「当事者など様々な関係者の意見を伺いながら検討・実施していきたいと考えています」とコメントしているが、これはLGBT活動団体の意向に盲従していると言えよう。
このように、急進派であるLGBT活動団体とのみ意見交換をして作成され、パブコメを無視し、議会での十分な議論が行われないまま採決されようとしている本条例は明らかに不均衡である。
なお、千葉県の性の多様性への理解を深めていただくことを目的とした冊子「みんなに知ってもらいたい性の多様性」はこのLGBT団体が企画・製作している。
【問題点3】「差別」の文言
千葉県の条例案は差別禁止を盛り込まれなかったが、同条例案の趣旨には「あらゆる人々が差別を受けることなく、一人ひとりが様々な違いがある個人として尊重され、誰もが参加し、その人らしく活躍することができる社会をつくっていく必要がある」と書かれている。この条文の意図するところにほとんどの人が賛同しているだろう。しかし、「差別」とは何を指す明確ではない。
「差別を受けることなく」は「差別の禁止」を含む?
パブコメでも「差別を受けることなく」とあるが、差別の定義が曖昧で拡大解釈されるおそれがあるため問題である」との意見があったが、県は「多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の前提を述べたものであり、差別禁止の規定ではありません」とコメントしている。しかし、一般的な日本語の解釈では、「差別を受けることなく」は、「差別的な意識や偏見がないこと」に加えて「差別的な行為が禁止されていること」が含まれている考えるのが妥当であろう。
「差別」と「不当な差別」
今年の6月に施行された「LGBT理解増進法」は、提出・成立までの過程で、自民党は、法案の目的や理念の表現を「不当な差別はあってはならない」に見直すことで、差別を禁止する規定ではないことを明確にしたとされている。「不当な差別」とは、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律、障害者差別解消推進法などで使用されている用語であり、正当な理由なく他者と異なる不利益な取扱いをすることを指す。では、「不当ではない差別」はあるのだろうか。「不当ではない差別」は合理的であり、みなが納得できるものである。たとえば労働条件においては、産前産後の女性に優遇措置をとることや、未成年者には更生の可能性を考慮し、同等の罪状であっても保護の対象とすることを指す。しかし、千葉県多様性条例は「差別」の意味が明晰化されておらず、パブコメへの県のコメントも前述の通り「差別を禁止するものではない」とはあるが明確な回答とはなっていない。この「差別」の定義を明確にせずに本条例が施行された場合、拡大解釈ならびに「差別の禁止」が明記されている法令が類推適用されてしまう可能性が危惧される。何にせよ、条文の「差別を受けることなく」の部分は削除、またはLGBT理解促進法にならい「不当な差別を受けることなく」に修正が必要である。それができないのであれば、廃案にするしかない。
【問題点4】千葉県多様性条例には「性自認」の定義がない
「性自認」も「性同一性」も、英語の「Gender(ジェンダー) Identity(アイデンティティー)」の訳語であるが、LGBT理解増進法は、自己申告によって自らの性別を主張することが公的に認められるようなイメージや誤解を避けるため、「性自認」を使っていない
他自治体多様性条例には性自認の定義あり
。一方、自治体が制定する性の多様性に関する条例では、一般的に「性的指向」及び「性自認」が使われている。「性的指向」及び「性自認」を併せて使用した最初の条例は平成25年に制定された文京区男女平等参画推進条例と 多摩市女と男の平等参画を推進する条例 である(なお、文京区条例は「性自認」ではなく「性的自認」と表記)また、文京区条例は制定のため、意見書受理、議会で報告をしたのちにパブコメを実施した後に区民説明会を開催し、更に様々機会を通じての意見聴取、研究者・弁護士等との意見交換を経ており、その経緯において「性的自認」という文言を条文に使用することとなった。また、平成元年10月に制定された大阪府の「大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例」では、「性的指向」を「自己の恋愛又は性愛の対象となる性別についての指向」と、「性自認」を「自己の性別についての認識」と定義づけている。(引用 性の多様性に関する条例 | 法制執務支援 – 地方自治研究機構)
しかし、千葉県は「性自認」の文言に疑義を唱えるパブコメに対し、「性自認の文言については、他県の条例でも使われるなど、定着している表現であると考えています」と回答し本条例制定において県としての「性自認」の定義を放棄。また、「県の総合計画などにおいも、これまで性自認を使用しており、県民に理解していただきやすいと考えています」とコメントしているが、県の総合計画の用語集には「性自認(性の自己認識)とは、自分の性をどのように認識しているのか、ということです。「心の性」と言われることもあります」と記載されている。この用語集に記載している一文をもって、千葉県が条例で使われる重要な文言の説明をしたと考えているというのであれば無責任極まりないと言えよう。
千葉県は「女性スペース」を守る気があるのか
国民はすべての基本的人権を享有している。当然、「性自認が女性」の男性も基本的人権の享有を妨げられない。ただし、人権は他人に他人の権利を侵害しない範囲で尊重されるとしている。(基本的人権の公共の福祉)千葉県は性自認という用語を多様性条例に記載する事により、自己の認識によって自らの性別を主張することを公的に認めることなり、他人の権利の侵害を誘発する恐れがある。
パブコメでは「女性を自称する男性が、女子トイレや更衣室などを使用するなどして、性犯罪が増えることの懸念がある」との意見に対し、県は「自己の性別に関する認識を偽ることにより、女性を危険にさらすようなことは決して許されることではありません」と論点を外した回答している。県は「性自認が女性の男性」の場合も「女性を危険にさらすようなことは決して許されることではありません」と女性スペースを守るために県は明言すべきである。もし、明言できないのであれば本条例から性自認の文言を削除すべき、または本条例を廃案にすべきである。
※ 女性スペースとは、女子トイレ、女性用更衣室、女湯など、女性として生まれた女性のみが性別分離し利用する空間を指す。女性自認の男性による女性スペースへの侵入事件が相次いで起きている。
【問題点5】「性自認」明記慎重派はLGBT反対者だとレッテルを貼る自民県連幹事長
12月5日の産経ニュースによると、自民党千葉県連の阿部幹事長は記者会見で「条例案に性自認の表現に違和感を持つ議員もいる」との記者の質問に対し、「慎重派はいてもいいが、そうだったら、『LGBTには断固ノーだ』と論陣を張ればいい」と答えている。性自認の表現に異を唱える「慎重派」は、現に発生している女性自認の男性が起こしている事件について不安を募っている県民の意見を真摯に受け止めており、それに対してLGBT差別者であるかのようにレッテルを貼る暴言は看過できない。
暴言に表れた「推進派」の県民感情軽視の姿勢
また、同記事によると安倍氏は「国のLGBTなどの性的少数者への理解増進法などと比べても全くの骨抜き状態で、人畜無害だ」とも発言しており、地方自治体の憲法と呼ばれる県条例に議論が百出している「性自認」の文言を書き込む重大性を理解しているのか甚だ疑問である。また、パブコメで1,279件の意見が出され、大半が否定的なものであった条例を「人畜無害」だと言い切る神経を疑う。同氏は県民の付託を受けている自覚はあるのだろうか。このような問題意識の薄さにより暴言を吐く阿部幹事長に自民県連は対応を一任しているのであれば、党内で闊達な議論は出来ないだろう。性自認「慎重派」は決して怯む事なく、議会で議論に臨んでいただきたい。
【まとめ】多様性条例は廃案し再度条例案作成からやり直せ
12月定例議会で採決予定の千葉県多様性条例は「LGBT団体のみに意見交換」をして条例案を作成し、パブコメは一切条例案に反映せずに「無視」し、「差別」や「性自認」の定義をせずに、問題意識に欠ける発言をする最大会派自民党幹事長が主導している。条例案作成の段階から問題がある本条例案は、継続審査することなく廃案すべきである。
千葉自民党は「強引」に施行したLGBT理解促進法と同じ轍を踏むな
本条例が熊谷知事の肝入りであればこそ、廃案した後に保革両方の意見を聞き、県民に丁寧に説明して誰もが納得できる条例の制定を願う。本年6月に成立したLGBT理解促進法は、国会審議を十分に行われないまま採決され国民の不評を買った。そして今、千葉県議会、そして千葉県自民党は同じ轍を踏もうとしている。
千葉自民党に意見を送ろう
本記事をお読みの方で千葉県多様性条例のパブコメに意見を送った方は多いであろう。無念にも我々の意見は条例案に反映されなかった。今一度、千葉自民党に意見を送ろうではないか。条例の問題点を挙げ廃案を求めると共に、「差別」「性自認」の表現に慎重な議員に激励の声を届けようではないか。採決まで時間はわずかしか残っていない。多くの方に千葉自民党へ声を届けるために、あなたのお知り合いで本記事に記載の内容に賛同いただける方がいれば、是非、千葉自民党に意見を送っていただくようお声がけを切に願う。意見の送付は下記のリンクから行える。